
NHK大河ドラマ「べらぼう」最終回に見る、生前戒名という文化
NHK大河ドラマ「べらぼう」最終回をご覧になられた方も多いのではないでしょうか。
物語の終盤、主人公・蔦屋重三郎が亡くなる直前に生前に戒名を授かるという印象的な場面が描かれました。
本寿院の三休でございます。
私は日頃からNHKの大河ドラマを拝見しておりますが、今回の「べらぼう」は特に心に残る作品でした。
とりわけ最終回で描かれた戒名の場面は、仏教的にも大変興味深いものでした。
生前戒名はフィクションか、現実か
ドラマの中で描かれた生前戒名が史実かどうかは定かではありません。
しかし、生前に戒名を授かるという考え方自体は、決して珍しいものではありません。
江戸時代には延命医療が存在しなかったため、死期をある程度見定めたうえで、
僧侶に葬儀や戒名の相談をすることも十分に考えられます。
戒名は「二文字」が本質
戒名というと長い名前を想像される方も多いですが、
本来の戒名はたった二文字です。
ドラマに登場した蔦屋重三郎の戒名では、「日盛」の「盛」の字が戒名にあたります。
「日」の字は日蓮宗を象徴する文字であり、
これにより日蓮宗の僧侶が授けた戒名であることが分かります。
現代では俗名の一字を用いることも多いですが、
必ずしも使用しなければならないものではありません。
「盛」に込められた意味
「盛」という文字からは、蔦屋重三郎の生き様が浮かび上がってきます。
吉原という厳しい身分制度の中で生まれ育ち、
独創的な発想と商才で耕書堂という一大事業を築き上げた人物です。
47歳という若さで亡くなりながらも、その影響は後世にまで残りました。
まさに人生を盛んに生き抜いた人物であったからこそ、
この文字が選ばれたのではないかと感じさせられます。
道号・院号から読み解く人柄
道号である「義山」には、
義に厚く、人との縁を大切にした重三郎の姿が重なります。
作家、彫師、絵師など、多くの人と誠実に向き合い、
一つの文化の「山」を築いた人生を象徴しているようにも思えます。
院号の「幽玄院」についても、
目に見えない世界、心を耕す世界を大切にした生き方が感じられます。
本を通して人の心を育て、世の中に静かな影響を与え続けた重三郎の姿と重なります。
戒名は、その人の人生を映す鏡
戒名を見ることで、
「この人はどんな生き方をしたのだろうか」
「何を大切にして生きてきたのだろうか」
と、自然と想いを巡らせることができます。
それが、戒名の持つ本当の意味であり、
戒名を知る楽しみではないでしょうか。
分からなくとも、「なるほど、べらぼうな人生だったのだな」と
感じ取れる戒名こそが、心に残る戒名なのだと思います。
改めて、戒名とはその人の人生そのものを表す、
とても大切な名前であることを考えさせられる最終回でした。
NHKニュース べらぼう展にて協力いたしました「投扇興」



